No.2 1999/10/03
雷の常識のウソ
静電気の話に続いて、雷の話を書きます。
雷についても、つい最近まで常識のウソがまかり通っていました。命にかかわることですから、正しい知識を持ちましょう。
まず、「雷が近づいたら、腕時計やネックレスなどの金属製のものを体から離せ」という話。今ではそれがまったく無意味であることが知られていますが、昔の間違った常識が親から子へと語り継がれては危険です。
それは、電磁気学の知識があればわかることです。ある形の物を静電界の中に置いたときにできる電気力線の形は、その物が絶縁体であるか導体であるかによって違いますが、導体であれば、その電気抵抗の違いにかかわらず同じです。人体は導体ですから、もし同じ形の人体と銅像を置いたとすれば、どちらも雷様には見分けがつかないのです。ですから、どちらにも同じ確率で落雷します。腕時計やネックレスを捨てたところで、落雷を受けにくくなる効果はまったくありません。
高い木の下にいれば安全というのもウソです。木に落ちた雷が、木の下にいた人に飛び火したという事故が起こっています。それは、電気抵抗の高い木に大電流が流れた時、オームの法則によって木の電位が上昇して周囲に強い電界が生じ、そばにいた人に向かって放電が生じたのです。
雷から身を隠す場所がなくてやむを得ず木の下に避難する時は、木の高さを半径とする円内で、かつ木から3m以上離れた場所で姿勢を低くしていれば、ほぼ安全であろうという話があります。しかし、これは理論的に証明されたことではありませんから、保証の限りではありません。
雷が近付いた時には傘をさしていると危険だという話もお聞きになったことがあるでしょう。傘をさしていると落雷を受ける危険が大きくなるのは確かです。しかし、傘をささなければ安全ということはありません。
最も安全なのは、建物や自動車の中に避難することです。自動車(金属ボディーでない車やオープンカーは除く)の中は、ドアの内側などの金属部分に触っていない限り安全です。落雷しても、電流は鉄のボディーを楽々と通過してしまうからです。
ある漫画で、落雷を受けた自動車が炎上するシーンを見たことがあります。しかし実際は、落雷しても燃料に引火することはありません。被害としては、タイヤがパンクするとか、カーラジオ(自動車電話があれば多分それも)が壊れることがあるという程度です。(もしかしたら、最近の自動車では、エンジン制御用コンピュータが誤動作してエンストすることもあるかもしれませんが。)
ゴルフ場で、雷鳴が聞こえるのにプレーを続けるのは、愚の骨頂です。こういうことは絶対にやめてください。