知人の息子(当時中学生)が言いました。「newsって、なぜnewsというか知ってる?」。私は、「ははーん、例の俗説を学校で聞いたな」と思いました。「北・東・西・南の略だという話?それ、嘘だよ」。
私は、あるアメリカ人からこう聞いたことがあります。
「newsの語源を知っていますか?」
「形容詞new(新しい)でしょう?」
「いやいや、違うのです。North、East、West、Southの略、つまり、四方から集まった情報という意味に由来するのです。」
「ははー、なるほど。」
かなり後になって、私は「そういえば、中学校で英語の先生もそう言っていたっけなあ」と思い出しました。しかし、フランス語を学んだ記憶から「ん?まてよ」と疑問に思い、ほかのヨーロッパ言語で「ニュース」を意味する単語を調べてみました。
フランス語: | nouvelles | (ヌヴェル) |
ドイツ語: | Neues | (ノイエス) |
スペイン語: | novedades | (ノベダデス) |
イタリア語: | novita | (ノヴィタ) |
どれも例外なく、各言語での「新しい」という意味の形容詞から派生した形になっています。英語のnewsだけがそうではないとは考えられません。
結局のところ、「北・東・西・南」説は、偶然の一致に着目したジョークだったに違いありません。
最近、似たような話を私の息子(中学生)が持ち込んできました。historyとは「his story」の短縮形としてできた言葉だと英語の授業で習ったというのです。私は、「それは嘘だ」と教えました。
「『歴史』は、フランス語ではhistoire(イストワール)、ドイツ語ではHistorie(ヒストーリエ)といって、英語のhistoryとよく似た形をしている。つまり、どれも一つの祖先の言葉から生まれたと考えられる。昔のヨーロッパ文明の中心地はヨーロッパ本土にあった。だから、historyのような古くからある言葉は、イギリスで生まれてヨーロッパ本土に広まったのではなくて、ヨーロッパ本土からイギリスに伝わったものであるはずだ。histoireにもHistorieにも、それぞれの言語で『彼の』を意味する語は含まれていない。だから、『his story』からできたというのは嘘だ。」
「偶然だけど、newsは、方角を表す四つの単語の頭文字からできているね」とか、「偶然だけど、historyはhis storyを縮めたような形をしているね」といった話題は、英語の授業を楽しくするのには良いでしょう。しかし、それは「walkの綴りは『二人で(w)歩く(alk)』と覚えなさい」というのと同等の駄洒落だと心得ておくべきです。
英語の先生方、ほかのヨーロッパ言語の辞書を引けば簡単に見抜けるような嘘をまことしやかに語り伝えるのはやめてくださいね。