No.86 2001/03/20
ヘクトパスカル

 みなさん、こんにちは。子ども電話相談室の出尾麻美おねえさんです。
 今日のお友達はどなたでしょうか。もしもし?
 はーい。
 お名前は?
 綾小路 千代姫でーす。
 はい、千代姫ちゃん、ご質問は何ですか?
 天気予報で、気圧を何ヘクトパスカルって言ってますけど、ちょうど1000ヘクトパスカルっていうのは、いつの気圧を基準にして決めたものなんですか?それと、昔はミリバールって言ってたそうなんですけど、ヘクトパスカルとミリバールはどう違うんですか?
 はい。では、無着 茶先生に教えていただきましょうね。先生、よろしくお願いします。
 千代姫ちゃん、まずね、ヘクトパスカルとミリバールってどう違うのかなっちゅうとね、おんなじものなの。昔は気圧の単位としてミリバールを使ってたんだけど、1992年12月1日からヘクトパスカルを使うことになったの。これはね、国際単位系っちゅうお約束に合わせましょうっちゅうことでそうなったの。
 国際単位系っちゅうのはね、尺とかフィートとか、貫とかポンドとかの、昔はばらばらだった単位を統一しましょうっちゅうお約束で、圧力の単位はパスカルっちゅうのに決められてるの。
 それでね、昔使っていたミリバールっちゅうのは、バールの1000分の1でね、1バールは、1平方センチメートルあたり10ニュートンっちゅう圧力なの。ちょっとむずかしいかな?
 んー、ニュートンって何ですか?
 ニュートンっちゅう人は知ってるかな?イギリスの科学者で、万有引力の法則を発見した人。りんごが落ちるのを見て引力に気付いたっちゅう伝説があるね。
 はい。
 そのニュートンさんを記念して、力の単位としてニュートンっちゅうのが決められてるの。これはね、「1キログラムの質量に作用して1メートル毎秒毎秒の加速度を生じさせる力の大きさ」って…むずかしいよね?
 よくわかんないです。
 そうだろうね。ここがわからなくて物理嫌いになっちゃう子が多いのよ。
 じゃあ、千代姫ちゃん、1キログラムってどのくらいの重さかわかるかなあ?1リットルの牛乳パックが1キログラムとちょっとなんだけど。
 はい。
 それをスペースシャトルに積んで宇宙へ持っていったら、重さがなくなってふわふわ浮いちゃうっちゅうのはわかるかなあ?
 はい、わかります。
 でもね、重さがなくなっても、1キログラムのものは1キログラムなりにずっしりしていて、それを投げようとすると、それなりの力がいるの。地上でもともと重かったものほど、無重力空間でも、よいしょって投げるのには大きな力がいるの。つまりね、1キログラムのものは、無重力空間で重さはなくなっても、1キログラムの「質量」っちゅう変わらないものを持ってるの。質量とは重さじゃなくて、動かそうとする力に対してどれだけずっしりして動きにくいかの度合いのことね。ただ、重力がある地上では、質量が大きいものほど、それに比例して重いっちゅうことなの。これはわかるかなあ?
 はい、なんとなく。
 それでね、1キログラムの質量のものに力を加えて動かした時に、1秒後に秒速1メートル、2秒後に秒速2メートルっちゅう具合にだんだん速くなったら、その力の大きさが1ニュートンなの。
 ふうん…
 先生、それってどのくらいの大きさの力なんでしょう?
 うーん、あ、そうそう、千代姫ちゃん、君はお買い物で100グラムのお肉のパックを持ったことあるかなあ?
 はい。
 もうちょっと正確には102グラムなんだけどね、それを手で持ったときに重さで手にかかる力、それが1ニュートンなの。これで実感できるかなあ?
 はい、わかります。
 それでね、その10倍の、重さにして1.02キログラムの力が、1平方センチメートルっちゅう、指の爪くらいの面積にかかっている圧力、それが1バールでね、これがだいたい1気圧なの。意外に大きい圧力だよね。
 ふうん…
 じゃあ、先生、1バールというのは、いつどこで測った気圧というものを基準にしたのではないのですね?
 そうなの。メートル法に基づいて、1気圧に近い圧力の単位として切りのいいように決めたものなの。高気圧だとたとえば1030ミリバール、低気圧だと990ミリバールっちゅう具合でね、日本の海抜0メートルの気圧の平均は1013ミリバールで、1000っちゅう切りのいい数字に近いんだけど、これは偶然なの。ここまでわかったかなあ?
 はい、わかりました。
 それでね、パスカルっちゅうのは、圧力の単位で、フランスのパスカルっちゅう科学者を記念したものなの。この人はね、パスカルの原理っちゅう、圧力に関係した法則を発見した人なの。哲学者でもあってね、「人間は考える足である」っちゅう言葉でも有名な人なのよ。
 先生、「葦」です。
 あ、ごめんね。間違えちゃった。
 この1パスカルっちゅうのはね、1平方メートルあたり1ニュートンっちゅう圧力って決められてるの。1バールは1平方センチメートルあたり10ニュートンだから、これを1平方メートルあたりに直すと何ニュートンかっちゅうと…1平方メートルは何平方センチメートルかな?
 えーと、100センチかける100センチで、1万平方センチメートル。
 そう。だから、1平方メートルあたりでは、10ニュートンの1万倍の10万ニュートンちゅうことになるの。つまりね、1気圧は10万パスカルくらいっちゅうことなの。だけど、これだと数が大きすぎるから、100倍を表す「ヘクト」を付けたヘクトパスカルを使うの。100パスカルが1ヘクトパスカルなので、10万パスカルは1000ヘクトパスカル。つまり、1気圧は1000ヘクトパスカルくらいっちゅうことになるの。これはミリバールと同じなのよ。うーん、だいぶむずかしかったかなあ?
 はい、先生、ありがとうございました。千代姫ちゃん、ヘクトパスカルというのは、実際の気圧をもとに決められたものではなくて、1気圧が1000ヘクトパスカルという切りの良い数字に近いのは偶然なんだそうですよ。それと、ヘクトパスカルはミリバールと同じだけど、国際単位系のお約束に合わせるために単位を変えたんだそうですよ。質量とかニュートンというむずかしいことも教えていただきましたけど、わかりましたか?
 はーい、わかりました。どうもありがとうございました。
 はい、どういたしまして。物理嫌いにならないようにしっかり勉強してくださいね。さよならー。

補足(1):標準気圧(正確な「1気圧」)は、フランスのパリと同緯度の平均海水面での平均気圧をもとに、101325パスカル(1013.25ヘクトパスカル)と決められています。日本の海抜0メートルの平均気圧はこれとほぼ同じです。

補足(2):万有引力の法則により、地上にある物体は、その質量に比例する力で地球に引っ張られています。落下するときの加速度は、(空気の抵抗がなければ)質量にかかわらず等しく、約9.807メートル毎秒毎秒(地球上の場所によってわずかに異なります)で、これを重力加速度といいます。地球が物体を引っ張る力(ニュートン)は、質量(キログラム)×重力加速度(メートル毎秒毎秒)となります。つまり、質量1キログラムの物体が地球に引っ張られる力は9.807ニュートンです。1ニュートンの力の大きさを実感してもらうためにこれを重さに換算すると、1ニュートンの力で地球に引っ張られる質量を求めることになり、1÷9.807≒0.102キログラム(102グラム)となります。

補足(3):ヘクトパスカル(hPa)は、ミリバール(mbar)と数値が同じであることから気象の分野で使われますが、ほかの分野ではほとんど使われません。自動車のタイヤの空気圧や電車のブレーキの空気圧にはキロパスカル(kPa)、水道の水圧にはメガパスカル(MPa)が主に使われます。1000mbar=1000hPa=100kPa=0.1MPa≒1.02kg/cm2がおよそ1気圧です。

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