No.89 2001/04/16
ディスクトップ

 英語の「she」(彼女)と「sea」(海)は、仮名書きすれば共に「シー」ですが、ご存じのように発音は異なります。「she」の方は、日本語の発音で「シー」と言えばほぼ正しい発音になります(厳密には、まったく同じというわけではないのですが)。一方、「sea」は、原音になるべく近いように仮名書きするとすれば「スィー」となるような発音です(「スイー」ではありません)。日本語の「サ・ス・セ・ソ」の子音は[s]音ですが、「シ」の子音は[sh]音になります。英米人にとっては、両者の子音は異なるものと認識されますから、その区別に注意しなければなりません。「サ・ス・セ・ソ」の子音に「イー」という母音をつなげて「sea」を発音するように気を付けましょう。
 ところが、日本人の中には、日本語にない[si]の音を正しく発音しようと気を取られたあまりのことでしょうか、「she」を「スィー」、「machine」(機械)を「マスィーン」と発音する人がいます。これは、英語としては不正確な発音です。英米人に「Sea is my wife.」と聞こえたところで話が通じなくなることはあまりないと思いますが、英米人にとって違和感はあるはずです。日本語訛りの英語を聞くことに慣れていて、日本人が「sea」を「she」のように発音することがあると知っている英米人も、その逆の間違いには戸惑うかもしれません。こういう間違いはちょっといただけません。どうせ[shi]音と[si]音の区別が苦手なら、堂々と由緒正しい日本語訛りでどちらも「シ」と発音する方がましというものです。
 なお、[shi]音と[si]音を正確に発音できるようになりたい方には、次の早口言葉をお奨めします。
She sells seashells on the seashore.
(彼女は海辺で貝を売っている。)
 ところで、英語の「digital」(計数型の)は、原音になるべく近いように仮名書きすれば「ディジタル」です。昔は、「ラヂオ」、「ビルヂング」のように、[di]音を「ヂ」で表記していたこともありましたが、今ではそのような表記は廃れ、「ディ」と表記するのが普通です。
 しかし、[di]を「デ」と表記することもあります。新聞などでは「digital」を「デジタル」と表記しています。日本語にない[di]音を「デ」と表記するのは、[si]音を「シ」と表記するのと大して変わらないと考えられますから、「デジタル」が間違った表記だとはいえないでしょう。
 ところが、英語の[di]音を「デ」と言っては不正確な発音になるということに気を取られたあまりのことでしょうか、「desktop」を「ディスクトップ」と言う人がいます。MS-IME 2000では、「デスクトップ」は「デスク」と「トップ」に文節が分かれて変換されますが、「ディスクトップ」は一文節として変換されます。このことから、「ディスクトップ」という言い方はかなり広まっているのではないかと推測されます。これも、[shi]音を「スィ」と発音するのと同類の間違いといえます。「digital」を「デジタル」と言うのは日本語の特性上許容されるべきだと思いますが、その逆に、日本語にもある[de]音をわざわざ「ディ」と言うのはちょっといただけません。

 「desktop」とは、「卓上(の)」という意味です。「デスクトップコンピュータ」とは、机の上に載せることができるコンピュータのことをいいます。
 ちなみに、ノート型パソコンは、英語では「laptop computer」(ひざ載せ型コンピュータ)といいます。
 Windowsなどのウィンドウシステムの用語としては、ウィンドウを開く前の基本画面の意味でも使われます。画面を机の上、ウィンドウをその上に置く紙に見立てたことからこう呼ばれています。
 「デスクトップ管理システム」とは、企業で社員が仕事に使うパソコンのシステムやアプリケーションプログラムの設定をLAN経由で一元的にコントロールするシステムのことです。システムプログラムやアプリケーションプログラムのバージョンアップや、ウィルスチェックのためのウィルス定義ファイルの更新などを、いちいち個々のユーザーに手作業でやらせることなく、遠隔で自動的に行う機能を持つシステムです。初めて聞くと、いわゆるデスクトップ型のパソコンだけがコントロールの対象になるかのように思いがちですが、そうではありません。ユーザーが卓上に置いて仕事に使うコンピュータという意味ですから、ノート型パソコンも対象になります。「desktop」には広い意味があるということに注意する必要があります。

 一方、「disktop」は別の語であって、「円盤上の」という意味です。「ディスクトップコンピュータ」とは、中華料理店にあるような回転円卓の上に置いて使うコンピュータのことです(円卓は英語で「round table」というのですが、長ったらしいので、回転円卓を円盤に見立てて「disk」と呼んだのでしょう)。かつて、小型のコンピュータの性能が低く、複数のアプリケーションプログラムを同時に動かすことができなかったころに、マシンごとに別々のアプリケーションプログラムを載せ、それを円卓の上に並べて置いたのです。そして、円卓の周りに座って仕事をする人たちが、「すみません、ワープロソフトを使わせていただいていいですか」という具合に声をかけ合いながら、円卓を回して仲良く交代でコンピュータを使っていました。
 ディスクトップコンピュータの初期のころには、円卓を一方向にばかり回していると電源ケーブルがよじれてしまうという問題がありました。この問題は、電気掃除機のコードリールのメカニズムを応用した発明によって解決されました。回転円卓の裏側または軸に付けられた回転電極にブラシ(固定電極)を接触させて給電するという仕組みです。
 しかし、通信ケーブルには同じメカニズムを使うことはできませんでした。回転電極とブラシとの接触点で発生する電気的ノイズで通信が妨害されるからです。この問題は、コードレスモデムの導入によって解決されました。
 ディスクトップコンピュータを使うには、他人への思いやりと譲り合いの心が必要です。自分さえよければよいという態度の人が特定のマシンを占有すると、喧嘩になることがあります。高性能になったパソコンを一人で占有できる今よりも作業能率は悪かったのですが、協調性を養うには役立っていました。
 あ…本気にしないでください!

目次 ホーム