No.103 2001/09/03
スパムメール

 営利のために相手かまわず片っ端からセールスするのに電話が使われるのと同様に、インターネットの電子メールも、相手かまわず片っ端から宣伝文を投げまくるのに使われています。このようなメールはUBE(Unsolicited Bulk E-mail:頼まれてもいない一括配信電子メール)またはUCE(Unsolicited Commercial E-mail:頼まれてもいない商業電子メール)といいますが、「スパム(spam)メール」という俗称の方がよく知られています。
 「SPAM」とは、元々は、アメリカの食品会社・ホーメルフーズ社の缶詰の商品名です。「SPAM! SPAM! SPAM!」と連呼するコメディーから、しつこく送られてくる迷惑な宣伝メールを「スパムメール」と呼ぶようになったという説が有力です。

 ほしくもない情報をメールで送り付けられるのは不愉快なものです。普通のダイレクトメールなら受取人には金銭的負担がかかりませんが、電子メールは、受信者もコストを負担しているものです。時間課金のダイヤルアップ接続でインターネットを利用している人なら、スパムメールの受信に要する時間も料金に含まれてしまうことになります。NTTドコモのiモードなどのようなパケット通信方式のメールだと、メール受信のためのデータ伝送量に応じて料金が加算されていきますから、ますます不愉快な気持ちになるものです。

 まともでない金儲けをたくらむ卑劣なスパマー(スパムメール送信者)は、ネズミ講やポルノサイトなどの宣伝メールをばらまくために、偽の送信者アドレスをかたります。多量のエラー差し戻しが自分に返らないようにするため、また、受信者が苦情の返信を送ることができないようにするためです。そのため、方々のサイトのネットワーク管理者は大変な迷惑をこうむります。
 私の会社にも社員宛のスパムメールがたくさん飛び込んできています。その中には、すでに無効になったアドレスに宛てられたものもあるのですが、送信者アドレスを偽っているため、差し戻すことができません。そこで、メールシステムはポストマスター(メールシステム管理者;元は郵便局長の意味)に通知します。それは、私や私のチームのメンバーに配信されます。ポストマスターは、メールシステムが検出するエラーを監視して適切な処置を講じる責務を負っているのですが、スパムメールのエラー差し戻しの失敗があまりに多いため、重大なトラブルの前兆になりうるエラーを見つけ出すのが非常にむずかしくなっているのです。

 さらに迷惑なのは、私の会社のドメインをかたったスパムメールです。昨年(2000年)、それで受信者(主にアメリカ)から会社のポストマスターやウェブマスター(ウェブ管理者)に苦情が殺到したことがあります。私は、すべての苦情メールに対して「それは偽のアドレスです。私どものドメインは、そのスパムメールを発信しても中継してもいません。そのスパムメールのヘッダが証拠です」と説明の返信を送りました。
 スパマーは、自分が苦情メールを受け取りたくないだけなら、実在しないドメインを差出人アドレスとしてかたればよいものを、なぜ実在のドメインをかたるのでしょうか。それはおそらく、実在しないドメインを差出人アドレスとするメールの受け取りを拒否するという防御策をとっているサイトがあるので、それをすり抜けるためではないかと思われます。また、スパマーのドメインからの受け取りを拒否しているサイトがあるので、まともな組織のドメインに偽ることによってガードをすり抜けようとしていることも考えられます。まったく卑劣なやり口です。

 先日、もっと卑劣なスパムメールが発見されました。私の会社の実在の社員のアドレスをかたったものです。当の社員から、身に覚えのないスパムメールのエラー差し戻しが自分に殺到していると申告が来てわかりました。どのように対処すればよいかという問い合わせに対し、私はこう回答しました。「あなたをスパマーだと誤解した受信者からあなたに苦情メールが来るかもしれませんので、来たら必ずこちらに知らせてください。対外的な説明はすべてこちらで行います。スパムメールのエラー差し戻しは無視してかまいません。もしそれが止まらなくて困るなら、メールアドレスの変更を申請してください。」
 なぜ特定個人に罪をなすりつけるようなことをするのでしょうか。それはおそらく、エラー差し戻しが実在のアドレスへ“正常に”届くようにすることによって、スパムメールの発生をポストマスターに発見されにくくするためではないかと思われます。ますます卑劣なやり口です。
 ところが、今回は、私の会社への苦情メールはまったく来ませんでした。スパムメールの差出人アドレスはたいてい嘘で、アドレスをかたられる被害者もいるから、苦情の返信をしてはいけないということが知れわたったのだろうと思います。それにしても、誤解によって苦情メールを送ってくる人が昨年はたくさんいたのに、1年で一人もいなくなるとは驚きです。

 スパムメールに迷惑している人はたくさんいるでしょう。ウェブ、掲示板、ネットニュースなどで自分のメールアドレスを公開したら、スパマーに利用されるリスクは必ず生じます。そこからプログラムでメールアドレスを片っ端から拾い集めるのは簡単だからです。かといって、インターネットをコミュニケーションのために有効に活用しようとすれば、自分のメールアドレスを完全に隠してはいられません。インターネットに参加する以上は、迷惑なメールもある程度受けてしまうことは覚悟して、あまり気にせずに無視するのがよいと私は思っています。
 防御策はいろいろありますが、完璧な防御策はありません。何がベターな防御策かは、人それぞれの事情によって違います。お困りの方は掲示板でご相談ください。

 スパムメールを受けた人へのご注意をいくつか挙げておきます。前述のとおり、スパムメールの差出人アドレスは偽物であることがありますから、くれぐれも返信しないでください。罪もない人にメールを殺到させることになりかねません。また、「ここへメールを送ればあなたのアドレスがリストから削除されます」と書いてあっても真に受けないでください。たいてい嘘です。罪もないサイトのメールサーバを過負荷にさせることになりかねません。

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