No.147 2003/12/20
確率のパラドックス(その2)

 あるメーリングリストで、確率に関するおもしろいクイズを知りました。

 賞品当てゲームで、A、B、Cの三つの箱が用意され、そのうちの一つだけに当たりの賞品が入っています。どの箱が当たりであるかの確率は均等です。
 出場者が三つの中から一つを選びます。ここで、出場者はAの箱を選んだとします。司会者は、当たりの箱をあらかじめ知っていて、こう言います。
「Aを選びましたか。実は…」
ここで、出場者が選んだA以外の二つの箱のうちBを開けてみせて、
「Bははずれでした。Aが当たりかもしれません。でも、Cかもしれません。さあ、ここでCに選び直してもいいですよ。どうしますか?」
 さて、出場者は、Aのまま変えない方が得でしょうか。それとも、Cに変えた方が得でしょうか。

 私は初め、「Bははずれだったとわかった後も、残りのAとCのうちどちらが当たるかの確率は異なるはずがない」と思いました。しかし、「Cに選び直した方が、当たる確率は高くなる」と説明してくれた人がいました。私なりに理解した方法で説明します。

 このゲームを多くの回数行った時、出場者が最初にAを選んで、次に司会者がBを開けてみせるのは何回になるか、そしてそのうちAが当たりだった回数、Cが当たりだった回数はそれぞれ何回になるかを考えます。
 ゲームの回数を900回とします。出場者が最初に箱を無作為に選べば、そのうち300回はAが選ばれることになります(もちろん、300回ちょうどになるとは限りませんが、確率論に基づく期待値としては300回ということです)。どの箱も当たりの確率は均等ですから、300回のうちAが当たりであった回数は100回、BとCも同様に100回ずつとなります。そして、司会者が次にBを開けてみせるのは何回になるかを考えてみます。
 以上のことから、出場者が最初にAを選んだ300回のうち、その次に司会者がBを開けてみせるのは150回。そのうち、Aが当たりであったのは50回、Cが当たりであったのは100回となります。つまり、司会者の誘惑にのって「くそっ、だまされた!」と思うのは50回しか起こらず、「わーい、変えてよかった!」と思うのは100回起こるのですから、選択を変えた方が得ということになります。
 ここではわかりやすさのために「出場者が最初にAを選び、次に司会者がBを開けてみせる」という場合に限定して考えましたが、その限定をせずにすべての場合を考えた計算でも、「最初の選択を変えずに当たる確率は1/3、選択を変えて当たる確率は2/3」となります。

 これで私はようやく「選択を変えた方が得」というのが正しいことを理解しましたが、納得するまでにはまだ問題が残っていました。私は初め、「Bははずれだったとわかった後も、残りのAとCのうちどちらが当たるかの確率は異なるはずがない」と思っていました。どちらも正しいように見えるのに互いに矛盾しているというパラドックスを解消しておかなければ、似たような問題に出会った時にまた間違えます。「当たりの確率はどちらも同じ」と考えたことのどこに誤りがあったのでしょうか。考えてようやくわかりました。
 出場者がAを選んだ後、ほかの二つの中から司会者が無作為にBを選んで開けてみせ、それがたまたまはずれだったとわかった場合は、後はAとCの二者択一になり、当たる確率は半々です。しかし、このゲームでは、司会者は、出場者が最初に選ばなかった二つのうち、はずれとわかっているものを開けるという作為が入ります。したがって、「無作為にBを開けたらはずれだったとわかった後」の確率計算と同じに考えてはならなかったのでした。



(2004/01/17 追記)
 ここに書いた説明が読者に理解しにくいことがあるとわかりました。次のように説明すれば、選択を変えた方が有利であることが、よりわかりやすくなるでしょうか。
 このゲームは、司会者が、Bがはずれであることを明かす前に次のように言うのと等価です(もちろん、こんなばればれの言い方をしないところにこのクイズのおもしろさがあるのですが)。
「Aを選びましたか。Aが当たりかもしれません。でも、BかCかもしれません。ここであなたは、『Aが当たりである』という方に賭けるのを変えなくてもかまいませんが、『BかCのいずれかが当たりである』という方に賭け直してもかまいません。もし『BかCのいずれかが当たりである』という方に賭けるなら、BとCのうちはずれの一つを私が取り除いてあげます。残りの一つが当たりであればあなたの勝ちです。さあ、どうしますか?」

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